ほうかごは、授業中に

「妹紅、放課後、寺子屋に来てくれないか? 子供たちを送って欲しいのだが――」
「え、いいの? ホントに?」
 嬉しそうに、質問で返された。よく意味がわからない。私が放課後に来ることを禁止したことなどあっただろうか。無いはずだが……まあ、いいか。
「最近は妖怪が出るそうだから、ぜひ頼む」
 物騒な世の中になってきた。妖怪にとっては、いい時代かもしれないが、寺子屋の子供にとってはそうではない。
 子供たちは、私や妹紅と違って、自分の身を護ることができない。だから、護ってやらなければならないのだが、問題がある。私一人で集団を護りきる自信は無いということだ。だが、妹紅がいるなら話は別だ。
 手伝ってくれるなら、本当に助かる。今度、妹紅に礼をしなければな。
「じゃあ、ちょっと永遠亭行ってくるよ。ゆっくりでいい?」
「ああ、もちろんだ」
「わかった、じゃあ!」
 妹紅は寺子屋の扉を開け、「待ってろよー!」と空に向かって叫ぶ。
「あっ、ちょっと待て!」
 遅かった。あの張り切り具合は、間違いなく永遠亭への殴り込みだ。私としたことが、殺し合いをするな、と釘をさすのを忘れた。
 まあ仕方が無い、また今度言おう。
 妹紅とは入れ違いに、子供たちが寺子屋にやってきた。

 【授業中の放課後】

「つまり、ここはこうなるわけだな。じゃあ次の問題――って、これで最後か。
 じゃあ、ちょっと休憩にしようか」
 子供たちは一気に脱力したように机に突っ伏し、すでに寝息を立て始める子までいる。私も少し疲れた。椅子に座って休憩しよう。
 そう思ったのだが、ふと視界の端に、灰色のものが映った。視線を向けると、ごみが床に溜まっているではないか。
「そこ、なぜそんなに汚れてるんだ?」
 私は、教室の状態には敏感なほうだと自覚している。教室の机が乱れていては、生徒たちが勉強をする気をなくす。だから、常に教室は美しくなくてはならない。
 生徒たちに聞いてみると、皆が、「自分たちではない」と言う。
 おかしいと思い、回りを見回すと、窓が開いていた。百姓が藁でも焼いているのだろう。
「外から入ってきたのかもしれないな。掃除するよ」
 なるべく急いで掃除を終えたつもりだ。だが、残念ながら休み時間は終了してしまった。
 やれやれ……。

「したがって、ここはこうなるわけだ。つまり答えは――」
 疲れつつも、私は授業を続ける。やはり休まずに授業をするのは辛い。だが、生徒にそんな考えを見せるわけにはいかない。
 そんな中だった。私と生徒の間を漂う、眠気による静寂が破られたのは。
「慧音!」
 寺子屋の扉が乱暴に開かれた音と、妹紅が私を呼ぶ声が同時に耳に入った。私は耳を疑った。同時に、溜まっていた疲れが一気に吹っ飛んだ。驚きで。
 百聞は一見にしかず、扉の方を向いた。やはり、妹紅がいる。
 放課後に来いといったのだが……。なぜだろう?
「妹紅、放課後に来てくれと言わなかったか?」
 それとも、見学だろうか。妹紅も子供に興味を持ったとか。
 否、違った。妹紅の答えは、私の予想をはるかに超えていたのだ。
「おう、永遠亭は全焼したよ!」



 【あとがき】
最初のタイトルは、『授業中の放課後』でしたが、日本語的におかしかったので、修正しました。

妹紅はちょっと前に輝夜に負けたに違いありません。
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