どうすればいい? |
おかしい。今日はとにかくおかしい。 何がおかしいかと言うと、今日は私の人形たちが私を避けるように会釈してどこかへと消えるのだ。いつもはそんなことはしないのに。まるで私を汚いものかのように、避ける。 上海人形と蓬莱人形が私のほうを見てひそひそと話をしている。私が見ているのに気付くと彼らは慌てたように私の視線を避けて適当に家中を飛び回る。 いったいなんなのだろう。昨日まではなんともなかった。それなのに、突然……。 ともかく、これだけははっきりしている。人形たちは、私を避けようとしている。長年の友達だと言うのにあんまりだ。……もういい、そんなに私を避けたいならこっちから出て行くまでだ。扉に手をかける。 「出掛けてくるわ」 その言葉を聞きつけた人形たちが驚き、机の上に集まる。そして上海人形が集まった人形と、私を交互に見て「どうする?」と言いたげに首をかしげた。人形たちも迷いだす。 「何なのよ、もう!」 決して私に話そうとしない、その様子に私は腹がたった。扉に八つ当たりするように――いや、実際そうなのだが、強く閉めた。自分でも信じられないような大きな音を立て、机の上の花瓶がすこし揺れた。背後からは人形たちの呼び止める声が聞こえたが、耳を貸さなかった。 私はこの怒る気持ちを静めようと、博麗神社に向かった。とにかく、話し相手が欲しかったのだ。お賽銭を少しでも入れるとあの巫女なら話をしてくれるだろう。 気が向かなかったのだが、人形たちに裏切られた今となっては、かつてのように孤独になってしまった。なら少しでも話せる相手がいたほうがいい。 魔理沙と話してもいいのだが、あまりそんな気にはならない。仲がよくないだからだろうか。 しばらくそのことについて考え込んでいると、博麗神社に着いた。いつものように、霊夢が掃除をしていた。 「いらっしゃい……あ、アリス!?」 私と顔を合わせた瞬間、霊夢が驚いた顔をし、苦笑いを浮かべた。そして小さく、かわいた笑い声を上げながら、どうすべきかと、視線を彷徨わせている。いつの間にか掃除の手は止まっていた。 「えっと、その……アリス……」 その様子が私の家にいた何人もの人形たちの姿と重なった。あの屈辱的な時間をもう一度見せられたようで、ついカッとなる。 「何なのよ、あなたといい人形といい! 邪魔したわ、さようなら!」 霊夢が引きとめようと私の服に手を伸ばしたけど、私はそれより早く霊夢に背を向け、飛びあがる。 「アリスッ! 待って……!」 「知らない!」 私は、今だせる最大の速度で、幻想郷の空を飛んだ。ふと、頬に冷たいものを感じた。私はそれを振り払い、とにかく飛んだ。目的地なんてなかった。しかし、どうしてもどこかへ飛んで行きたい、どうせならこの空と一体化して消えてしまいたい、そんなことを考えていた。 もちろん、それがかなわぬ夢だとは知っていたけど。 私は飛ぶのに疲れ、たまたま見つけた岩に降り、座った。 岩に座ったまま空を見上げていると、今日の出来事が嫌でも思い出され、頬に先程より少し暖かめの涙が伝った。それに続いて、止まれと願っても止まらない、涙がどんどん溢れてくる。 今まで私は孤独など平気だと思っていた。作ってしまえば、人形と友達になれたから。しかし、人形を失った場合私はどうなるのか、それを考えた事などなかった。その予想外の現実が、友達を作っておかなかった後悔の念とともに心に鋭く突き刺さる。 「うっ……ぐすっ……酷いよぉ……」 溢れる涙を手で拭う。荒んでいる心のせいだろうか、拭った涙が黒く見えた。 私が拭っても拭っても、決して涙は止まらない。それどころか余計に溢れてくるような気がする。 「――ス! アリスー!」 突然、背後から霊夢の声が聞こえた。おそらくさっきから追いかけていたのだろう、そして今やっと追いついた、ということに違いない。 今更話す事などない、あなたとは絶交したのだ。私は立ち上がり、飛び上がろうとした。 「アリス、待って!」 飛び上がろうとした霊夢が私の手を、飛べないように掴んだ。もうそんな距離にまで近づいていたのが信じられなかった。 「何よ!」 「それは霊夢に聞いてくれ」 霊夢とはかけ離れた声に、涙を拭くことも忘れて驚いて振り返ると、黒い帽子をかぶった魔法使い、魔理沙がいた。腕を掴んでいたのは魔理沙だったのだ。 魔理沙はなぜか気まずそうな顔をしている。その表情が先程の霊夢、そして人形たちに酷似している。また、腹がたったが、怒りの代わりに溢れたのは涙だった。 「アリ――」 「アリス! ちょっとごめん!」 霊夢が近づき、手を伸ばす。私の視界が白一色になった。しかし完全な白というわけではなく、すこし薄暗い。どうやら何かを顔に押し付けられたらしい。 私が混乱していると、その押し付けられたものが動き出した。肌触りから、柔らかい布で出来ているらしい。 「ほら、か――涙を拭いて……」 霊夢が尋常ではない力で私の涙を拭く。正直、指が目に入って痛い。どちらかというと顔を拭かれているような感覚だ。 やがて霊夢は引き剥がすように私の顔からハンカチを離した。 「今更何をしに来たのよ」 「さっきはごめんね、その……ちょっとびっくりして」 霊夢は慎重に言葉を選び、少しずつ放出していく。しかしいつもの霊夢とはかけ離れた、慎重そうなその霊夢が気に食わなかった。何かを、隠されているようで。 「意味がわからないわ、ちゃんと説明して!」 「お前こそ説明しろよ」 魔理沙が、突然私たちの間に割って入った。それに驚いた霊夢が魔理沙の袖を引っ張り、止めようとするが、それより早く私は魔理沙に意見した。 「何がよ!?」 魔理沙は、彼女の疑問をド直球に私にぶつけた。 「さっきまで顔に書いてあった『私は変態』って、いつ自覚したんだ?」 あとがき 誕生日ネタかと思わせて落書きという予想外の不意討ち……のつもりで書いた小説です。 騙された方、GJです。 こういったときにどうすればいいのかは私にはわかりませんが、魔理沙は空気を読むべきだと思います。 こういったとき、霊夢の方法ぐらいしか正解らしきものが見つかりません。 TOHO/SS/HOME |