500年の哀

皆様のおかげでやっと公開、三作目です。

一作目と二作目で完全放置のフランドールにスポットを当て、話は展開いたします。

やはりどの話から読んでいただけても問題はないでしょうが、出来ればこの話を読み終わった後に一作目と二作めも読んでいただけると作者は喜びます。

もちろん、それらを先に読んでくださっても作者は喜びます。

一作目と二作目のタイトルは『500年の愛』『100年の絆』です。

この作品の下のほうにあると思います。

読んでやろう、という方は↓でお願いします。

しつこいようですが、こちらのほうでかんs(スキマ














「えっと……どこかな〜?」

 紅魔館の門番、紅美鈴は棚の整理をしていた。普段は触らない棚、実はここを触っているのにはわけがあった。

 さっき、紅魔館の従者、十六夜咲夜にこの前ここにお茶を飲みにきたときにナイフを一本忘れた、と言われたのでそれを探していたのだ。何で置き忘れたのか、そしてこの前ここで何があったのかは門番は思い出したくはないが、嫌でも思い出してしまう。何が起こったのかは聞かないで欲しい。

 確か棚の上においていたはず。美鈴はずっと上を向き、中身を探っていた。美鈴よりも背が高い棚なので、よく見えないので四苦八苦しているのである。

 この棚は物を入れる専用で、主にこのあたりの落し物などを入れているのだが、たまに雑な門番がいて、それ以外のものも入れていく奴がいるのだ。ちなみに美鈴はその雑な門番には入らないが、彼女の部下のわりと多くは雑なほうに当てはまる。たまに買い物を頼んでも、ここに入れていくのだ。いい加減にやめてもらいたいのだが、聞いてくれない。ここは一番便利なんだから、ということらしい。

 見えないのだが、狭い棚、どうせすぐ見つかるだろうということで手探りで探していたのだが、思ったよりてこずる。そろそろ首が痛くなってきたときのことだった、何かが指先に当たった。引き寄せ、棚から降ろしてみる。期待は外れ、ただの分厚い本だった。しかし、危険はすぐそばまで迫ってきていることに彼女は気付かない。棚の上で何かが不気味に光る。その瞬間は、すぐそこまで迫っていた。

「わあっ!!」

 すばやく机のほうに飛び込み、一瞬ギラッと光った銀色の凶器をかわす。自分がいたところを見ると、それが床にグッサリと刺さっていた。当然、咲夜のナイフである。

「あ、あ、危なかった〜」

 手に持っていた本を机の上におき、床に刺さったナイフを引っこ抜く。しかし、案外深く刺さったらしく、抜けない。腕に力を入れ、体重を背中のほうに掛ける。

「わあっ!!」

 しばらく力を入れ続けると、勢いよくナイフが抜けた、当然、抵抗が急になくなる。したがって、美鈴の体は後方によろけ、後頭部に机の脚が直撃する。さらに追い討ちである、さっきの机の上においた本が額に落ちてきた。さらに不幸なことに、その本の角から、残念である。

「〜〜!!」

 しばらくは痛みに悶絶するも、歯を食いしばって何とか立ち直る。鏡を見ると額のところが赤くなっているに違いない。見てしまうと余計痛くなりそうなので、気を取り直し、服についた汚れを払う。

「えっと――聞こえるかな。咲夜さああああん!!」

「呼んだ? そして額が真っ赤よ」

 聞こえたらしい。いつの間にか目の前に咲夜がいた。この行動にはいつも驚きつつも、慣れたことだし、本人も止めてくれないので特に何も言わず、ナイフだけを差し出した。そういえば咲夜に額のことも指摘された、やっぱり赤くなっていたか、痛いわけだ、美鈴はそう考える。

「ああ、ありがとう。このナイフは職人特製でとっても高いのよ、見つかってよかったわ、ありがとうね」

 咲夜は本当に嬉しそうにそのナイフを受け取る。正直、ナイフを持ちながら笑う彼女は非常に怖い。ナイフもふさわしい主人にめぐり合えて――再会できて不気味に笑ったように見えるから。

「いえ、たいした事はありませんので」

「あら……美鈴、それ、見せてくれる?」

 咲夜が何かに気付き、指差す。咲夜が指差した机の上には一冊の本があったのだ。拾って咲夜に差し出す。



 ==500年の哀==



「ごめん、やっぱり置くわ」

 咲夜はそれを受け取り、意外な重さに驚き、机の上に本を開いた。

 最初のページには大きく、

「なになに……成長の記録?」

 咲夜は何かに気付いた。今日は日記に縁がある日らしい、さっきは地下で、そして自分の部屋で日記を見た。

「咲夜さん、この本……」

 美鈴も何かに気付いたらしい。読みたそうに手をうずうずさせている。

「ええ、間違いないわ。読みましょう」

 残る一人の日記はないものかと時間を止めて探し回ったが、結局は見つけることが出来なかった。残る一人とはもちろんフランドールである。自分の部屋にはレミリアの成長の記録が、そして図書室の近くではパチュリーの日記があった。ならばフランドールの日記があってもおかしくはない。だからこの日記はフランドールの日記だろう。

 と思っていたのだが。

「ああ、やっぱり!! 咲夜さんこれ――パチュリー様の本ですよ、『もやしの歴史』って書いてあります。やった、これ読みたかったんです〜。誰が買ってきてくれたんでしょう? あ、図書館の予約取り消しとかないと」

 ズゴーッとその場でずっこける咲夜。ちなみに顔面から床に入ったのだが、角度は74度だ。

「紛らわしいもの置いておかないでちょうだい!!」

 咲夜の顔は上気している。てっきりフランドールの成長の記録だと思っていたのだ、それがなんだ、もやしだぞもやし。しかも写真機で撮られた絵が丁寧に貼ってあるし、一日一日の成長の記録が丁寧に書いてあるし、育てる際のベストポジション、肥料、季節などもばっちり書いてある。

 さらには人間の世界でのもやしの歴史と、幻想郷のもやしの歴史の比較など、本当にもやしに関しては辞書のような存在の本だ。どんだけもやし好きなんだこの筆者、ってパチュリーか、なら納得できるな。

 しかも誰が描いたのか、漫画も載っている。タイトルのところに大きく『かもすぞー』と書いてあった。結構面白かった、と本人たちは語る。

 思いっきり勘違いしてしまった咲夜は恥ずかしくなり、美鈴から顔が見えないようにしつつも、それを読む。

 すっかりと『もやしの歴史』というタイトルからは想像できない意外な名作に読み入っていた咲夜と美鈴であったが、そういえば、と美鈴が声を掛ける。

「咲夜さん何か探しものだったんですか?」

 そうだと言おうと思ったが、止めておいた。フランドールの日記を探していたのは事実であるが、門番の部屋で探すのは場違いのと言うものだろう、それに興味本位だし、特に読みたいわけでもない、といえば嘘になるが――最初からそんなもの無かったと考えれば諦めがつく。

「咲夜さん、何なんですか、教えてくださいよ」

 いちいち聞いてくる美鈴が鬱陶しい、咲夜の心では徐々に怒りのボルテージが上昇しつつあった。次何か言ったら――。

「ねえ咲――」

「ああもう、うるさいッ!!」

 美鈴は地雷を踏んだ。まだ赤面している咲夜は美鈴のほうに振り向くと、思いっきり怒鳴りつけた。

「わあ、唾が飛んできました! 衣服を溶かしてます〜咲夜酸ですね」

「うるさいなもう、いい加減にしなさいよッ!!」

 そういって咲夜は美鈴のほうに懐から取り出したナイフを投げる。かなり危ない感じでかわす美鈴。美鈴から焦りの表情が消え、安堵の表情になる。

「ふぅ……いきなり投げないでくだ――ええ!?」

 だが、すぐに焦りの表情に戻る。ナイフは美鈴の後ろに飛んでいったかと思ったが、それはくるりと反転、なんと戻ってきたのだ。

「そのナイフは私の特製でね、私の意志で動かせるのよ!」

「わっと……咲夜産ですね」

 もう一度かわす。ちなみに本人はふざけているつもりはない、「こういうことをしてくるところが咲夜さんですね」と言っているつもりなのだ。

「まだ言うかッ!!」

 それに気づかず勘違いをしたままナイフを投げる咲夜。冗談は嫌いではないが、自分が恥をかいているのにもかかわらず馬鹿にされているみたいで腹がたったのだ。

 ナイフをかわすのに夢中になっていた美鈴は本棚が後ろに迫って――正しくは自分が徐々に本棚に近寄っているのに気づかず、ついにぶつかってしまった。

「イタッ!!」

 再び後頭部をぶつける美鈴、その美鈴の頭のてっぺんに咲夜のナイフは向かっていくが、本棚から落ちてきた数冊の本がそれを食い止めた。そのうちの一冊の本にナイフが刺さり、本と一緒に床に落ちる。

「た、助かりましたあ……」

 床に落ちて完全に動かなくなったナイフを見て安心する美鈴。

「まったく、あんたってやつは……」

 すみませんと、とりあえず自分の非を認める美鈴。心の中では私何か悪いことした? と考えながらも。咲夜のほうは気が済んだのかもしれない、呆れた表情をしている。

「本が散かっちゃいました」

 美鈴は本を片付け始めた。条件反射のように手伝う咲夜。さっきも大量の本を見たような気がする、今日は本に縁のある一日らしい。

 本の中にはさっき咲夜が投げたナイフが刺さった本があった。

「え!?」

 咲夜は気付いた。この本、咲夜の部屋にあった本と非常に似ている。唯一違うのは、色だ。咲夜の部屋のあの本の色は青であるに対し、この本は赤だ。全然違うように見えるが、よくよく見てみると模様もまったく同じなのだ。

「咲夜さん? 咲夜さあん?」

 美鈴の声が聞こえるが、咲夜は気にせずにその本の表紙を開いた。美鈴も次第に声を掛けるのをやめ、視線を落としてその日記を覗く。



 ★



一気に二冊も書くことになるのは少し辛いのですが、これもお嬢様たちのため、17代目のメイド長として一生懸命書かせていただきます。

さて、今日はこの屋敷に新しい命が生まれました。

レミリアお嬢様の妹様で、フランドールお嬢様と名づけられました。

こちらの日記は、フランドール様専用の日記とします。

本当は私の妹に書かせてもいいのですが、あの子は最近は忙しそうなので止めておきました。

早速今日のことですが、お生まれになったばかりのフランドール様は周りをキョロキョロされていて、とても愛らしく、レミリア様のお可愛がりになっていました。

しかし、最初フランドール様を見たとき、私は軽く恐怖のようなものを感じました、いったい何なのでしょうか?

寒気がしたので風邪でもひいたかと思いましたが、熱はありませんでした。



 ★



 フランドールのことが記された、この日記。やはりフランドールのことが書かれた日記があったのだ。

「これ……どこかで見覚えが……思い出せない」

 美鈴はどこかで、遠い昔見たことがあったその日記を記憶の引き出しから必死に探すのだが、見つけることは出来なかった。この日記の存在は確かに自分の頭の中にあるのだが、煙のように不安定で、すぐにも消えてしまいそうな記憶。読めば、思い出すかもしれない。

「咲夜さん、これ読んでもいいですか?」

「ええ、というより私も読むわ」



 ★




フランドール様は、今日もお元気です。

しかしひとつ気になることがありました。

フランドール様に差し出した風船がいつの間にか無くなっていたのです。

どこかにおいてあるのでしょうと思いましたが、そうではなかったのです。

そして手には風船が握られていました、すでに割れた風船が。

私はわけがわからず、とりあえず別の風船を差し出して見ました。

音が聞こえたのですぐに戻ってくると、やはりその風船は割られていました。

爪で割られたのでしょうか。

不思議です、力のお強いかたなのでしょうか?

それでも、お休みになっておられるお顔はとてもかわいらしく、たまに楽しそうにお笑いになります。

そういえば関係がないのですが、ひとつ、まな板がなくなりました。

誰かに知らないかと聞いてみましたが、誰も知りませんでした。

どこにいったのでしょうか。

 ●

今日は、悲しいことがありました。

なんと、レミリア様とフランドール様の間に亀裂が入ったのです。

メイドたちが泣いて私のところに来るので事情を聞くとフランドール様が部屋を破壊されているそうです。

すぐに私も行きましたが、部屋中は完全に荒らされ、レミリア様は泣かれていました。

フランドール様もまた、それに刺激されたのか泣かれていました。

メイドたちが青ざめてそれを見ています。

私は信じられませんでしたが、フランドール様がお蹴りになった壁は一瞬にして巨大な穴が開きました。

その様子にメイドたちが恐怖を感じ、中には失神するものまで現れました。

私はおふた方に謝り、どうすればいいかと考えていると、16代目のメイド長のことが頭に浮かびました。

彼女がそうされていたように、抱っこをして泣き止ませることにしましたら、何とかお休みになりました。

ところで、現在この日記を書いている頃でしょうか、もうフランドール様をこれからどうするかを決める会議が終わったでしょう。

結果は知りませんが、私はお二人が仲良く出来るような結果を望み、そうなることを信じています。

 ●

昨日の結果ですが、残念なことになりました。

レミリア様とフランドール様は完全隔離、そしてフランドール様は地下に移動させられることになりました。

残念ながら、お二人で仲良く暮らして欲しい、という私の願いはかなわなかったようです。

そういえばレミリア様、あなたはもしかして……フランドール様の幽閉に可決されました?

気のせいですよね、そうですよね……。

そしてもうひとつ悲しいことが、この日記は今日で最後です。

明日からは紅魔館の門番長がつけることになりました。

門は門番たちが守り、門番長はフランドール様を監視されるそうです。

彼に、日記を渡すことになりました。

今から門番長に渡しにいきます、さようなら、フランドール様。

あなたにも、もっと仕えたかったです。

あなたにあのような力が無ければ、お幸せに暮らせたでしょうに。

わたしはあの力というものを信じたくはありませんが、フランドール様がお遊びになっていた部屋で見つかった粉々になった木、あれはあなたが壊されたまな板だったんですね。

てっきりごみかと思い捨ててしまいましたが、今ならはっきりとわかります。

フランドール様、あなたはなんと不憫なのでしょう。

どうか、いつかは出てこれますように。



 ★



 フランドールの生まれたときの記録。やはりフランドールは生まれつきあの力を持っていたのだ。すべてを破壊する能力、あの能力がどれほど紅魔館の人々に疎まれていただろうか。このメイド長はそんな力を気にせず世話をするつもりだったのだろうが、大多数はフランドールを地下に幽閉することを決定したのだろう。

 幽閉というくらいなのだから、完全に閉じ込められていたのだろう。しかし今のフランドールは紅魔館でよく見られる。出てくるようになった経緯を咲夜と美鈴はしらなかった。

「フランドール様は今はたまに紅魔館の中に出られていますよね、どうしてなのか気になりませんか?」

「そうね、私も気になるわ」

 彼らは次のページをめくる、やはり字が変わっていた。濃い字で、かなり綺麗で読みやすい。その字を見たとき、美鈴は見覚えがあるような気がしたが、思い出せなかった。



 ★



今日からは書き手が変わった。

私は門番長であるが、フランドール様の様子見、すなわち監視をすることになったのだ。

今日はフランドール様に異常はない、だが、悲しいことがあった。

16代目のメイド長が亡くなったのだ。

彼女とは長年の友であった。

よくあいつには馬鹿にされて、何度も口げんかしたものだった。

しかしあいつと喧嘩をした後は何かすっきりしたものである。

そのせいで部下によく理想のカップルと冷やかされたのを知っている。

あいつが病気になり、この紅魔館を去ってしまうときはもちろん悲しかったが、それでもまたいつかは会える、前のように喧嘩が出来るとその日を楽しみにしていた。

しかし、あいつは帰らぬ人となってしまった。

去る前に病気だったという話を聞いていたので、住んでいるところを聞いてよくお見舞いを持って行ったのだが、必要ないのではと思うぐらい元気だったのを覚えている。

しかし今考えて、わかった。

あいつは実は無理をしていたのだ、私に心配させたくはないから、無理をして元気なふりをしていたのだ。

そして嬉しそうな顔をしながらも、悪口を言う、それがいつものことで、これからも続くと思っていた。

私はあいつの葬式に出席し、黙祷した。

あいつと一緒に仕事をした日々、喧嘩をした日々、すべてを思い出していた。

今ではあいつを慕っていたかつての副メイド長がメイド長であるが、彼女も相当悲しんでいたらしい。

見たところ、葬式が終わって彼女を埋葬するとき、ずっとしゃがみこんで涙をこぼしていた。

泣き止んだメイドたちも彼女の姿を見て、もらい泣きしていた。



なあ、お前はこんなにも多くの人に愛されていたんだ、安心しろ、後は私たちに任せておけ。

だからお前はゆっくり寝ていろ、いつまでも病気のままは嫌だろう?

ゆっくり休んで、元気になったらまたお嬢様を見守ってやれよ、な?



 ★



 突然変わった書き手、そして悲しい事実。この門番はよほど悲しかったのだろう。

「好きだった――いや、愛していたんですね……」

「ええ、そうね。本人は隠しているつもりだったでしょうけど、バレバレね」

 この門番はこんなにもメイド長のことを愛していたのだ、悲劇の、愛だった。少し、二人の目から涙が溢れた。

「今回はフランドール様の話は少なめですね、次いきましょうか」

「ええ、そうね」

 といってもフランドールが壁を壊した、備品を壊した、との話がたくさん書かれていた。しかもこの門番長、ほぼ一日中地下の中にいたらしく外の事情はほとんど知らないらしい。レミリアのことはほとんど書かれていなかった。

「それにしてもこの字……」

「え? 何か言った?」

「い、いえ何でも。気のせいですよね……」

「?」



 ★



16代目のメイド長のことを知らないフランドール様は食事を運ぶメイドたちが落ち込んでいるのにまったく気付かなかったらしい。

フランドール様も話せるようになられたが、まだ血を吸うことは出来ない。

そもそも自分が血を吸うということを忘れて、もしかしたら知らないのかもしれない。

どちらかはわからないが、無理もないことだろう。

フランドール様には血の入ったお食事をお出しする。

まだ食べるのは上手くはないらしいがそのうち上達されるだろう。

 ●

フランドール様が壁を壊された。

走り回っていると壁が頭に当たって痛かったので腹がたった、と仰っていた。

駄目ですよ、と叱ると、だって暇だからと仰った。

私は駄目なものは駄目なんです、ととりあえず無理矢理だったが納得さた。

そこまではよかったのだがこの後だ、レミリア様がこの話をお聞きしたらしく、激怒された。

フランドール様はさらに深く、頑丈な地下に幽閉されることになった。

今の地下室はまだ上での話し声が聞こえる程度なのだが、その地下室は物音ひとつ聞こえない。

当然フランドール様は抵抗されたが、結局移動される事になった。

フランドール様はしばらくはお嘆きになり、何度も壁を殴っておられた。

しかし破壊するとまたお叱りを受けてしまう、だから力を使わずに何度も、何度も、たとえ出血しても壁を殴っておられた。

それが唯一出来る怒りの解消の方法なのだろう。

暗くて遊び相手もいらっしゃらないこの地下では、何も、フランドール様の退屈しのぎになる事も、物もないのだ。

八つ当たりしか、怒りの解消をご存じないなど気の毒なことこの上ない、なんと不憫な……。

 ●

移動された地下室は、やはり静かで、話し声が聞こえない。

フランドール様は今日一日中泣かれていて、壁を壊された。

その様子をご覧になっていたレミリア様が、フランドール様を殴られたらしい。

私はその頃フランドール様のベッドを運んでいたので知らなかったのだが。

メイドたちが止めるが、レミリア様はとことん殴られたそうで、帰ってきた私が見たのは顔中あざだらけのフランドール様だった。

レミリア様はすでにお帰りになった後だった。

フランドール様はお姉さまも、紅魔館もみんな嫌い、と仰っていた。

何とか寝かしつけたが、それまでずっと泣かれていて大変だった。



 ★



「フランドール様、可哀想ですね……」

「ええ、あのような力が無ければ、もっと幸せに暮らせたでしょうに」

 フランドールの生まれつきのすべてを破壊する力、それは重い枷となって、常にフランドールに付きまとっていた。当時はやはり大多数の人に恐れられ、疎まれていた。きっとレミリアもその一人だ。

 17代目のメイド長が書いていた日記、レミリアはフランドールの地下室幽閉に賛同した、すなわちそれはフランドールの力を恐れたということでもあるだろう。

 それに加えて、さらに深い地下への移動。現在はそれほど深いところには入れられていないが、かつてはかなり深い地下に入れられていないに違いない。咲夜は何度もフランドールの食事を運んだりして地下に行っているが、上の音は少し聞こえる、だから当時の地下とは違う部屋と考えるべきであろう。



 ★



あいつが帰らぬ人となってから二ヶ月が過ぎた。

現在のメイド長のおかげでメイドたちもかなり落ち着いているのがよく分かる。

そういえば最近私はほとんど外には出ていないがどうなっているのだろう。

門番たちもまだ訓練が必要だから少し心配だ。

そういえば今日はまた恐ろしいことがあった。

フランドール様の足元の床が一箇所粉々になっていたのだ。

フランドール様は何か小さい物が入ってきて、可愛いから捕まえようと思ったら壊れた、と仰っていた。

おそらくネズミであろうが、この方は生き物を物と勘違いされているそうだ。

それは違いますよ、死んだんですと申し上げると、「何が違うの、所詮どちらも脆い物じゃない」と仰った。

私は結局、反論することが出来なかった。

フランドール様の基準であると、すべてのものが脆い。

命の大切さというものを、教えることがこれから出来るのだろうか?

それ以前にまず、私が物と命の違いと言うものを明確に説明できるようにならなくてはならない。

 ●

フランドール様は暗くて話し声の聞こえない地下の中で、毎日泣いておられる。

怖い、寂しいと何度お聞きしただろうか。

私としても何とかして差し上げたいのだが、そのような権力は私には無い。

申し訳ありません、フランドール様。

出来ることならあなたをこっそり逃がして差し上げたいのですが、残念ながらそれは出来そうにありません。

 ●

最近はレミリア様がよくいらっしゃるようになった。

どうやら最近はフランドール様のことをお可愛がりのようだ。

最近はこの前のように命を奪うことはあっても、壁を壊されることが少ないからかもしれない。

フランドール様も、私以外の話せる人に出会えて、嬉しそうだ。

なによりであるが、フランドール様が私以外にお会いになるのは何年ぶりだろうか、食事を運ぶ仕事も最近では私の仕事となった。

最近フランドール様がレミリア様の指先をよく見ていらっしゃるのだが、どうやら16代目のメイド長が作った指輪を見ておられたのだそうだ。

フランドール様も欲しい、と仰っていた。

しかし、残念ながらそのようなものは無かった。

私は魔法には正直なところ自信がある、それで何かを作って差し上げようと思ったが、フランドール様の力には耐え切れるものは作れないだろう。



 ★



「命と物の違いですか……単に生きているものと生きていない物だよ、と教えるわけにもいきませんしね……」

「ええ、命と物の違いを教えるのは案外難しいわ、この門番はどうやったのか、ちょっと興味はあるわ」

 二人はページを少し多めにめくった。日々の努力が書かれていたが、どれもなかなか効果が無かったらしい、ねずみが、虫が、次々と殺されたと表記されている。

 かなりまめな性格であったらしいので、大きくめくってみた。数十年、もしかしたら数百年は飛んだだろうか?



 ★



もうかなりの月日がたち、フランドール様もずいぶん成長された。

もっとも、種族の関係で、幼く見えるが。

私は妖怪であるのでまだまだ死ぬことはない、どちらが先に死ぬかはわからないが、私が先に死ぬことを祈る。

しばらくともに過ごしてきただけあって、私にもフランドール様という人物がよくわかってきた。

最近はずいぶんおとなしくなられたと思う。

昔はよく扉や壁を壊され、大変だったのだが最近はそんなことも無くなった。

そこで私は思い切ってフランドール様を解放して欲しいと申し出た。

残念ながら却下されてしまったが、紅魔館の中にならたまに出してもいいとレミリア様は仰った。

感謝します、レミリア様。

そのことをフランドール様にお話しすると、大喜びされていた。

早速明日出るんだ、と張り切っておいでだ。

 ●

予告どおり、出て行かれた。

帰ってこられた頃には、夕刻になっていただろか、楽しそうに帰ってこられた。

しかしメイド長は元気が無かったと仰っていた。

そういえば最近メイド長がレミリア様と墓参りにいってきたといっていた。

帰ってきたフランドール様は床に小さく、浅い穴をあけておられたので、何をしているのかと聞くと焦ったようになんでもない、と仰った。

まあ深追い無用であろう、フランドール様も秘密というのを持ちたい年頃なのだろうし。

フランドール様も成長されたものだ、ずいぶんと優しくなられた。

これなら外に出しても問題ないように思えるが、まだ無理らしい。

そのことは残念だったが、私はあの方が外に出られる日が来ることは遠くないと信じている。

 ●

今日もまた紅魔館内でお遊びになったらしい。

鳥を捕まえてこられた。

その鳥は珍しいもので、青い色をしていた。

今度は殺すことは無いように、慎重に扱っておられた。

フランドール様の、初めてのお友達である。

これで命の大切さと言うものはわかってもらえただろうか。

私は念のため、それは一度死ぬと戻れませんからね、とお伝えしたところ、ご理解いただけたらしい。

長年命と物の違いについてお教えしたかいがあったらしい、嬉しい限りだ。



 ★



「フランドール様、外に出られたんだ……」

 美鈴は嬉しそうに呟く。それもこの門番長のおかげであろう。同じ門番長として、尊敬の念を隠すことなく、むき出しにしているようにみえる、むしろ間違いなくそうなのだろう。

 もしあの時、この門番がフランドールを外に出すように申し出なければ、今もフランドールは外の世界を知らなかったのかもしれない。そう考えれば、この門番は偉大なことをしたといえるだろう。

「それに、友達も出来たしね」

「ええ、青い鳥か〜私も見てみたいです。幸せを運ぶっていいますし」

「そうね」



 ★



上では、パチュリー様というかたがいつの間にか誕生されていて、レミリア様とお友達になっていたそうだ。

もうフランドール様は400歳ほどになる。

月日の流れというのは早いものだ。

私はまだまだ妖怪としては若いが、吸血鬼としてはどうなのだろう?

パチュリー様に戻すが、いつかは友達になれるといいのだが。

 ●

レミリア様とパチュリー様から贈り物が届いた。

レミリア様は鳥のぬいぐるみ、パチュリー様はくまのぬいぐるみだ。

どちらも大切に使われていたようで、壊されないか冷や冷やした。

しかし壊されることは無く、大切に使われていた。

本当にこのようなものを下さってよかったのだろうか?

鳥のぬいぐるみは青い鳥のぬいぐるみで、黄色いくちばしがついている。

フランドール様のお友達の青い鳥にそっくりだった。

くまのぬいぐるみは茶色で、腰のところにポケットがある。

少女が好みそうなぬいぐるみである。

立派なものだ、おふた方には大変感謝しております。

今度礼を言いに行こう。

 ●

久しぶりに門番としての作業をした。

最近はよく上で遊ばれるので、私が監視していなくてもよかったからだ。

久しぶりに会う部下はみな元気で、退職したものは一人もいなかった、なによりである。

そして新しい門番が一人増えていた。

珍しく女性で、紅美鈴というらしい。

てっきり私は『くれないみすず』と読むのかと思ったのだが、『ホン・メイリン』と読むらしい。

よく間違えられると語っていた、なぜか直感した、あいつは苦労人になるだろう。

今日はフランドール様はお元気だ。

上に行くことが出来るようになってからというものの、お元気で何よりである。

 ●

今日は不思議なことが起きた。

17代目のメイド長の妹が私を訪ねてきたのだ。

どうやら手作りの帽子とリボンに私の魔力を込めて欲しいらしい。

快く引き受けると、なぜかかなり感謝された。

私は魔力を込め終わり、差し障りが無ければ、と理由を聞いた。

どうやらパチュリー様へのプレゼントらしい。

レミリア様の指輪が羨ましいとのことで、作ってあげたらしい。

そういえばレミリア様は最近指輪をつけていらっしゃらない、どうしたのだろうか?

……と思っていたのだが、すぐに理由はわかった。

ここには詳しく書けないが、いつかは謝罪しなければならない。

話は変わるが、紅美鈴は兵士の中でもよく頑張っているようである。

怠け者が多いのだが、あいつは努力家だ。

そのため苦労しているようだが、私はあいつに次の門番長を勤めてもらいたい。

今度レミリア様に聞いてみるとしよう。



 ★



「やっぱり……師匠だったんだ……」

 美鈴は感動で声が震えている。師匠、というくらいなのだからよく知っているのだろう。

「美鈴、あなたこの人の事知ってたの?」

「ええ、私の上司であり、武術の師匠でもある存在でした。朝から日が暮れるまで稽古をつけてくださったこともあり、今の私がこうして仕事を続けているのもこの方のおかげです」

「そう……あなたこんな昔から勤めてたのね、じゃあ……次の日に何があるか知ってるわよね?」

「……ええ、知っています」

 美鈴は少し悲しそうな顔をし、表情が一気に暗くなる。咲夜は悟った、この人もか……、と。

「美鈴、どうする? 次のページ、見る?」

「はい、師匠の、この後のことが知りたいです」

 咲夜は思う、この子は私よりもずっと強いのね、と。咲夜と美鈴は意を決して次のページをめくる。



 ★



今日のことは本当のことなのかは未だにわからない。

紅魔館の周辺で地震が起こったらしく、紅魔館が大破した。

私はその時フランドール様と地下にいたため、物が落ちてくるといったことは無かったが、扉がひしゃげて外に出ることが出来なくなった。

そして、なんと天井がひび割れ、岩が落ちてきて、右足を押しつぶされた。

さらにはフランドール様の背後の壁が突然ひび割れ、たいそう驚かれたようだ。

フランドール様は大泣きされ、地下室の檻を破壊された。

私はその衝撃に吹き飛ばされたが、怪我は無かった。

フランドール様は私を見て泣きながら大丈夫、と仰っていた。

私は構わないが、フランドール様が怪我をされては大変だ、怪我をされた様子は無かったので一安心だ。

しかし、二つの残念なことがある。

一つ目は、あの青い鳥のことである。

岩に押しつぶされて、死んでしまった。

フランドール様は直して直して、と仰っていたのだが、本人は無駄だとわかっておられただろう、やがて死んじゃいや、と何度も涙をこぼしながら仰っていた。

不謹慎であるが、フランドール様に命というものをご理解いただけたようで、それだけは喜ぶべきことだったのかもしれない。

もちろん、悲しいことであるが。

その鳥は16代目のメイド長の墓の隣に埋めておいた。

そして二つ目であるが、私は今日でこの仕事を退職する。

理由はというと、この怪我で仕事を続けることが不可能になったからだ。

フランドール様のすべてを破壊する力のおかげで、ひしゃげた扉は壊され、外に出ることが出来たが、悲惨な光景であった。

美しかった紅魔館はほとんど壊れ、窓は割れ、血の跡が残っている。

そして何より衝撃的だったのが、中央のシャンデリアは落ち、そこに下敷きになっている人物がいたのだ。

彼女こそが、17代目のメイド長であった。

すぐに治療されたが、どうやら駄目だったらしい。

聞くところによると、レミリア様とパチュリー様の二人を守り、亡くなったそうだ。

なんと立派なことだろうか、こういうときこそ私のような兵士の出番であろうに、それを一人のメイドがやってのけたのだ。

私は自分が情けなかった、なぜあの時シャンデリアの近くにいなかったのか、あそこにいれば三人を守ることが出来たのに。

私は結局何もすることが出来ないまま、治療室へと運ばれた。

明日にはより大きな病院へと移される。

最後に、フランドール様がお見舞いに来てくださった、光栄である。

今までありがとう、目に涙をため、そう仰った。

私は感動し、最後にお元気で、とだけ返事をした。

フランドール様は頷かれ、部屋を出て行かれた。

今のことであるが、私は紙と鉛筆を持って手紙を書いている。

それは、フランドール様と、レミリア様に宛てた二枚の手紙である。

この日記に書くわけにはいかないので、くまのぬいぐるみのポケットの中にその手紙を入れた。

今はレミリア様には会うことは出来ないだろう、しかし私は今日でもうここを去る。

だから最後に、手紙を残しておこうと思ったのだ。

もし見つけた人がいれば、ぜひレミリア様にも持って行って欲しい。

そこには、私の気持ちが書いてある。

そしてもう一枚、フランドール様に宛てた手紙であるが、それも手紙を見つけた人はフランドール様に持っていって欲しい。

そしてこの日記であるが、歴代の門番長が書いて頂きたい。

私はこの日記をこれからメイドに渡すつもりだが、どこに行ってしまうのかはわからない。

地震の後だ、いろいろと忙しいだろうからこの日記も紛失されてしまうかもしれない。

しかしもしこの日記を見つけ、あなたが門番長であるなら、この日記にフランドール様の成長を綴って欲しい、それが私の願いだ。

私は、この紅魔館に仕えることが出来たことを誇りに思う、この日記を読んだ人は、忘れないで欲しい。

紅魔館は素晴らしいところであると、そして、フランドール様の成長の様子を楽しんでいた、馬鹿な一人の門番がいたということを。

そして私の部下たちよ、お前たちには世話になった。

私は今日限りで退職するが、後はお前たちに任せる。

末永くこの紅魔館の門を守って欲しい。

さらに記しておくことがある、紅美鈴、レミリア様から許可をいただいている、お前は明日から門番長としてこの門を守ってくれ。

またいつか帰ってくるかもしれない、その時にはまた稽古をつけてやろう。

これからはお前がこの紅魔館の盾であり、剣である。

お前にも頼んでおく、末永くこの紅魔館を守ってくれ。



 ★



「し、師匠……はい、私、頑張りますから……!」

 少し涙声になっている美鈴ははっきりと、約束する。この紅魔館に、そして彼女の師匠に。彼女も思い出した。あの日、美鈴はいつものように門を守っていたら、突然地震が起こった。そして崩れゆく紅魔館を見ていることしか出来ず、館の中に入ったらシャンデリアが落ち、血だらけの17代目のメイド長を見た。自分はショックで気絶し、自分たちの部屋に戻された。そして翌日目を覚ますとレミリアに呼ばれ、この紅魔館の門番長になったということを告げられたのだ。

 彼女の師匠に一言挨拶をしようと思ったのだが、そこでメイドに大きい病院に移り、退職したと聞かされた。美鈴はそこで始めてこの門番が怪我をしたと知ったのだ。そのメイドから日記を渡されたのだが、かつての門番長が去ったショックで混乱しており、本棚にしまったまま忘れていたということだ。

「生きて……いたのね」

「ええ、師匠はあの地震では亡くならず、この紅魔館を去りました。最後に挨拶できなかったのがどうしても心残りで……」

 美鈴は本当に寂しそうに、悲しそうに話す。門番長は紅魔館にたった一人しかいない、うすうすその師匠がどうなったのかはわかっていたが、最後にどうしても一目会いたかったのだろう。しかしそれはかなわなかった。

 咲夜はしばらく美鈴のことを見つめていたが、やがて日記の中に書かれていたことを思い出したらしい。

「……美鈴、ぬいぐるみ、とって」

「はい」

 美鈴は即座に反応し、棚の上にあるぬいぐるみを取り、ポケットを探す。やはりあった。中にあった紙を開けると、やはり手紙のようなものが書かれていた。もちろん、二枚である。かなり前からあるだろうが、誰にも触られていないのだろう、まだ綺麗なままであった。

 纏わりつく罪悪感を払い、紙を開く。ここまで来るともうこの中身を見ずにはいられなかった。文字が見えた頃、後めいた気持ちがさらに強くなるが気にしつつも、そっと読み上げた。レミリアへの手紙、そしてフランドールへの手紙の順に読む。



 ★



この手紙を読んでいただける頃には、私はすでに紅魔館を去っていると思いますが、言い残したことがありますのでここに記します。

まずは、レミリアお嬢様に謝罪申し上げます。

実はレミリア様がお探しであった花の指輪、フランドール様がお持ちだったのです。

理由をお聞きしたところ、あの花の指輪がどうしても欲しかったそうです。

私がそれに気付いたのは何十年も後だったと思います、地下の床の下に埋めてありました。

フランドール様に注意をすると、ごめんなさい、と謝罪をされました。

しかし、もしレミリア様にそのことを申し上げると、フランドール様が地下室から出ることを禁止されるでしょう、私はそれがどうしても耐えられなくて、指輪をしばらく隠し、しばらくするとお嬢様のソファーの中に落としておきました。

大変申し訳ありませんでした。

どうかフランドール様をお許し願います。

そしてレミリアお嬢様、私にフランドールお嬢様を預けていただき、ありがとうございました。

私は今までの門を守るという仕事から、フランドール様の監視という仕事にうつされ、当初は多少の不安を覚えたものの、現在では離れるのが惜しくなるほどこの仕事に執着しているのを感じます。

誠に、ありがとうございました。

私は退職しますが、すみませんでした、そして今までありがとうございました、もうお会いすることはないかもしれません、しかし、私は紅魔館を忘れません。

長年ありがとうございました、さようなら。



 ★



フランドール様、私のことはお忘れかもしれませんが、これを読んでいただけることを望みます。

私はあなたの世話を任された門番です。

あなたにはもう一度お会いしたいのですが、しばらくは病院に行かなければならず、ここにはしばらく戻ることは出来なさそうです。

フランドール様、この手紙を読んでいる頃には命の大切さというものをわかってもらえましたでしょうか?

あなたは優しい子です、今はまだわからなくても、きっといつかはわかっていただけるでしょう。

命の大切さと言うものを理解したとき、あなたはきっと、外に出られることになるでしょう。

その日を、遠くで祈っております。

フランドール様、あなたに使えることが出来て私は幸せでした。

確かに手のかかるあなたではありましたが、大切なものをあなたからたくさん受け取りました。

どうか悲しまず、いつものように元気でいらしてください。

私からの願いは以上です。

またお会いできる日を、楽しみにしています。

最後にフランドール様、あなたの心にあるいくつもの哀は、まだ解消されていないでしょう。

いつかきっと、ここに戻ってきてあなたの哀を取り除いて見せます、その時までお元気で。



 ★



「美鈴、私はこの手紙を届けてくるわ。あなたは――」

「フランドール様の日記を引き継がせていただきます、どういうわけかあの方には懐かれていますから」

「ええ、お願いするわ、……じゃあね」

「さようなら、咲夜さん」

 咲夜は、来たときと同様、突然消えた。今まで彼女のいた場所には、水溜りが出来ていた。

「まったく……仕事を増やさないでくださいよ……」

 そういう彼女もまた、床を濡らしているのは事実であった。雑巾を手に取り、床を拭く。

「持ち場に……戻らないと」

 槍と入館者の名簿と日記を持ち、いつも自分が立っている門へと向かう。今日は、寝ないでおこう。そう考えながら日記をもう一度読み返す、さっきは飛ばしてしまった場所も、徹底的に読み続ける。

 どのくらい時間がたっただろうか。

「失礼申し上げる」

「わっ!?」

 突然の声に驚き、振り向く美鈴。振り向いた先には、長身の男が立っていた。白髪であるが、まだ若々しい。巨漢で、かなりの強さが感じられる。美鈴はとっさに槍を強く握った。そしてすぐ、気付く。

「……あなたは……もしかして」

「やはりお前だったか、それでは門番としてはよくないぞ」

「師匠……!」

 間違いは無かった、この声、数百年前と同じ。あの日記の作者、かつての門番長であり、美鈴の武術の師匠である。

「お待ち……しておりました。戻ってきてくださったんですね」

「ああ」

 さまざまなエピソードを秘めるこの紅魔館の昼下がり、今まさに哀が愛に変わろうとしていることを太陽の――希望の、そして祝福の光がひっそりと告げていた――。



 ★



 久々の再開にかつてのことを覚えているメイドたち、そして二人のスカーレットは大変喜んでいた。特に妹のほうが喜んでいたようだ。当然だが。それで今は、フランドール、美鈴、咲夜、そしてかつての門番長で仲良く廊下を歩いていた。

「師匠、久々の紅魔館はどうでした?」

「うむ、素晴らしかったぞ、ちっとも変わっておらんな――いや、変わったか、レミリア様、フランドール様、そして――お前も」

「私変わりました?」

「ああ、前よりずっと、立派になったぞ」

「そんな……恥ずかしいですよ」

 美鈴は下を向き、顔を合わせないようにしている。しかし今は真昼間、太陽の光のせいで真っ赤であることはとっくにばれている。

「めーりん、顔真っ赤だよ!」

「フランドール様!? そ、そ、そんなことはないですよお!」

「めーりんおもしろーい!!」

 きゃっきゃと騒ぐフランドール。庭に着くと、フランドールは白い小鳥が止まっているのを見つけた。それを追いかけ、掌に乗せる。その小鳥は掌をつつく。フランドールは痛そうだったが、耐えた。小鳥は楽しそうに手の上を満喫したようで、飛び立っていった。フランドールは終始、その鳥を殺すことはなかった。

「痛たたた……」

 突付かれた手を痛そうにさするフランドール。その様子を見てかつての門番は喜びを感じていた。突付かれたところで喜ぶのは不謹慎かもしれないが、それを隠すことは出来なかった。

「フランドール様、成長されましたね」

「うん、だって命は簡単に奪っちゃ駄目なんでしょ?」

「はい、もちろんです」

 フランドールが飛んでいった鳥を追いかけるように走り回る。そんなほほえましい様子を見て、かつての門番長が口を開く。

「美鈴、それと……咲夜さんだったかな?」

「「はい」」

 二人同時に返事をする。かつての門番長が頼みがある、と口を開いた。何かと咲夜と美鈴は聞き返す。

「フランドール様に花の指輪を作って差し上げてもらえないだろうか? 私はそういうのは苦手でな……枯れない魔法をかけることならできるのだが」

「師匠……もちろんです! ねえ、咲夜さん?」

「ええ、もちろんです。作らせていただきます」

「感謝する」

 走り回っていたフランドールは庭の一部が一瞬黒く染まったことに気付く。反射的に上を見たフランドールはさらに気付いた。

「あ!」

 フランドールが指差したほう、はるか上空を見ると、空と一体化した様な青い鳥が飛んでいた。美鈴はフランドールに日傘を差しつつも空を見上げる。その鳥はこの紅魔館に幸せを告げに来たのか、いや――もしかしたらこうかもしれない。あまりにもこの場にふさわしくない哀を引き取り、代わりに愛を運びに来た、というのはどうだろうか?



あとがき

これでシリーズ完結……orz
一番書くのが難しかったのがこの作品です。
今回の世話係は男にしてみました、それも門番長で。
理由は、紅魔館にいながらも美鈴が完全スルーだったから、これが作者の理由。
そして高位の魔法使いである門番長ならある程度はフランドールを抑えることが出来ると思っていたから、これが紅魔館の人々の理由です。
本編で語られることはありませんでしたが、知っている必要はないので一応補足といった形でここに書いておきました。
裏話になりますが、最初は妖忌さん=門番という設定にしようかと思いましたが、さすがに公式破壊しすぎかと思いやめました。

さらに補足を、最後の太陽の――希望の、そして祝福の光というところですが吸血鬼にとって光h(略)というツッコミはなしで、門番二人の再会の祝福と受け取ってくださいorz

そういえば16代目のメイド長が死んだときの門番の日記ですが、二人は両想いということでこんな感じにしました……が、しかし、500年の愛のほうではこの門番のことは一言も書かれていません、理由はご存知の通りです。
しまったあああああ……最初からシリーズの予定で公開しておけば……門番が片思いみたいになっています……残念orz(←門番長)

多少無理矢理な感じが残り、竜頭蛇尾なこのシリーズですが、皆さんに楽しんでいただけると幸いです。
ちなみにこの作品は想想話のほうで執筆したものを加筆したものです、ちょっとですけどねw
最後に申し上げます、最後まで読んでいただきありがとうございました。
言い足りないのでもう一度、本当にありがとうございました!

この作品の関連作品:『500年の愛』、『100年の絆
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